就業規則は、労働者保護や紛争防止を趣旨とするもので、使用者と労働者との間の労働契約の内容を構成する重要な労務管理文書の一つです。また、労働者に企業秩序に違反する行為があった場合において、懲戒事由を就業規則で定めておかなければ、原則として懲戒解雇を含む懲戒処分を行うことができないという観点からも重要な意義を有します。

本記事では、①就業規則の作成・届出義務の内容と②就業規則の作成・変更について履践すべき手続について解説します。

1. 就業規則の作成・届出義務

(1) 就業規則を作成・届出しなければならない使用者

「常時10人以上の労働者を使用する使用者」は、就業規則を作成し、所轄労基署長に届け出なければならないとされています(労働基準法第89条)。

「常時10人以上」とは、「常態として10人以上の労働者を使用しているか否か」によって決せられると解されています。例えば、繁忙期だけ従業員を雇い入れ、一時的に10人以上の要件を満たすような場合は含まれません。

「常時10人以上」という人数要件に係る判断は、事業場単位によって計算され、正社員のみならず、非正規労働者その他の雇用形態の労働者も合算して計算されます(但し、派遣労働者は派遣元の労働者として計算されるため含まれません)。すなわち、「常時10人以上」の要件を満たす全ての事業場に適用される就業規則を作成し、原則として事業場単位の届出を行う必要があります。就業規則の内容は、事業場ごとに異なる内容であっても構いませんし、全ての事業場について共通でも構いません。

当初は就業規則の作成義務がない状態であっても、事後的に常時10人以上の労働者を使用するに至った場合には、「遅滞なく」就業規則を作成・届け出る義務が生じます。

就業規則の作成・届出の義務がある使用者がこれを怠った場合には、30万円以下の罰金が科されるおそれがあります(労働基準法第120条第1号、第89条)。

なお、10人に満たない小規模会社であっても、就業規則を作成することは妨げられません。この場合、作成した就業規則は所轄労基署長への届出義務はありません。

(2) 就業規則の適用対象となる労働者の範囲

労働基準法第89条に基づく就業規則の作成・届出義務は、正社員のみならず、他の雇用形態の労働者も含めた全労働者について生じます。例えば、正社員の他に有期契約のパートタイマー等を使用している場合において、正社員にのみ適用がある就業規則のみを作成したとき、正社員以外の労働者(例:パートタイマーの労働者等)を適用対象とする就業規則を別途作成しない限り、労働基準法第89条に基づく就業規則の作成義務違反となります(平成11年3月31日基発168号)。

(3) 就業規則の形式

就業規則は単一の文書により作成する必要はなく、「賃金規程」「退職金規程」「育児介護休業規程」等のように、規律する労働条件の内容に応じて複数の文書に分割して作成することも可能です。同様に、「就業規則」とは異なる名称で作成された文書であったとしても、労働基準法第89条各号に掲げる事由について定めた規程であれば、当該規程は就業規則の一部として効力が認められます。

上記のとおり就業規則として効力が認められる文書については、その名称にかかわらず、就業規則に関する届出義務や周知義務の対象となる点に注意が必要です。

(4) 就業規則の記載事項

就業規則に記載する事項には、①必ず記載することが義務付けられる絶対的必要記載事項、②事業場においてに定めをおく場合に記載が義務付けられる相対的必要記載事項、③就業規則への記載は任意である任意的記載事項の3種類があります。このうち絶対的必要記載事項及び相対的必要記載事項には、以下の内容が含まれます(労働基準法第89条各号)

<絶対的必要記載事項>

① 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項

② 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

③ 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

 

<相対的必要記載事項>

① 退職手当に関する事項

② 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項

③ 食費、作業用品などの負担に関する事項

④ 安全衛生に関する事項

⑤ 職業訓練に関する事項

⑥ 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項

⑦ 表彰、制裁に関する事項

⑧ その他全労働者に適用される事項

(5) 就業規則の届出方法

労働基準法第89条に基づく就業規則の届出は、通達(平成25年4月4日基発0404第1号)により、一定の要件を満たしたCD-R、DVD-R等の電子媒体によって行うことも可能とされています。但し、この場合であっても、労働基準法第90条第2項に定める意見書及び同法第95条第3項に定める同意書は、書面による必要があります。

前述のように、就業規則の届出は事業場単位が原則とされていますが、通達(平成15年2月15日基発0215001号)により、本社の就業規則と本社以外の事業場の就業規則が同じ場合には、以下の要件を満たせば、本社において一括して届け出る「本社一括届出」が可能とされています。但し、この場合においても、就業規則に対する意見書は、各事業場の就業規則に添付する必要があります。

① 本社の所轄労働基準監督署長に対する届出の際には、本社を含め事業場の数に対応した必要部数の就業規則を提出すること。

② 各事業場の名称、所在地及び所轄労働基準監督署長並びに労働基準法第89条各号に定める事項について当該企業本社で作成された就業規則と各事業場の就業規則が同一内容である旨が附記されていること。

③ 労働基準法第90条第2項に定める書面については、その正本が各事業場の就業規則に添付されていること。

2. 就業規則の作成・変更に関する手続

(1) 就業規則の意見聴取義務

使用者は、就業規則の作成・変更にあたり、当該事業場ごとに、過半数労働組合がある場合はその労働組合、過半数労働組合がない場合は過半数代表者の意見を聴取し(労働基準法第90条第1項)、その就業規則を届け出る際にその意見を書面として添付しなければなりません(同条第2項)。この意見聴取義務に違反した場合、30万円以下の罰金に処せられるおそれがあります(労働基準法第120条第1号、第90条)。

過半数代表者とは、当該事業場のすべての労働者の過半数を超える者によって代表者とされた者のことをいいます。過半数代表者の具体的な選出方法は以下の要件を満たす者である必要があるとされています(労働基準法第90条第1項、同施行規則第6条の2)。

① 労働基準法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと(管理監督者とは、一般的には部長、工場長など、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある人をいいます。)。

② 就業規則の作成・変更の際に使用者から意見を聴取される者等を選出することを明らかにして実施される手続により選出された者であること。かかる手続きは、労働者の過半数が当該者の選任を指示していることが明確になる民主的な手続でなければなりません(例:労働者の話し合い、持回り決議等)。

意見聴取の程度としては、十分に陳述する機会と時間的余裕を与えて諮問をすることが必要となりますが、意見表明や意見書への署名・押印拒否されたり、就業規則の作成・変更について全面的な反対をする意見であったとしても、協議をしたり、同意を得たりすることまでは義務付けられていません。

(2) 就業規則の周知義務

使用者は、就業規則の作成・変更に際し、以下のいずれかの方法により、労働者が必要なときに容易に確認できる常態にあるようにして、就業規則を労働者に周知させる義務があります(労働基準法第106条第1項、同施行規則第52条の2)。かかる周知義務を怠った場合、30万円以下の罰金が科せられるおそれがあります(労働基準法第120条第1号、第106条第1項)。

① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。

② 書面(印刷物・複写した書面も含む)を労働者に公布すること。

③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること(例:就業規則を電子データとしてパソコン等の機器上で常時確認できる様にする)。

3. さいごに

以上、就業規則の作成・届出義務の内容と就業規則の作成・変更について履践すべき手続を概観してきました。

就業規則を新規に作成する場合のほか、一旦作成した就業規則を変更する場合にも、前述した意見聴取手続や周知手続の履践が必要とされることに留意してください。特に、就業規則の変更により労働条件の変更を実施する場合には、変更後の就業規則の周知が、労働条件変更の効力発生要件の一部となることに留意が必要です(労働契約法第10条)。

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