新型コロナウイルス感染症の蔓延、緊急事態宣言の発出による休業要請や外出自粛などにより、日本の経済活動は深刻なダメージを受けています。その中で、企業は、やむを得ず従業員を自宅に待機させたり、労働時間の短縮を行うことを余儀なくさるケースも見受けられます。今回は、このような休業や労働時間の短縮に伴う法律問題について検討をしていきたいと思います。なお、検討する内容が多いため、2つの記事に分けて検討いたします。後半は「新型コロナウイルスに関する労務(休業②)」をご覧ください。

1. 休業の手続について

Q1 労働日数を減らしたり一日の労働時間を短縮することはできますか。その場合どのような手続が必要ですか。

(1) 休業とは

労働日数を減らしたり一日の労働時間を短縮することは、休業といいます。労働契約上労働義務ある時間について労働をしないようにすることを意味し、従業員に丸1日休んでもらうという場合だけでなく、1日の労働時間を短縮する場合も「休業」に該当する点注意してください。

(2) 休業の手続

それでは、休業を実施する場合、労働者の合意や行政官庁への届出等が必要となるのでしょうか。

実は、休業の実施には、届出等の手続は法律上要求されておりません。また、労働者との合意は必要ではなく、使用者が、指揮命令権又は業務命令権に基づき休業命令を行えば済みます。もっとも、休業を実施する相当の事由がなければ、業務命令権の濫用として当該休業が無効とされるおそれがあります。このため、休業を行う合理的な理由を説明することができるようにしておくべきです。

なお、使用者の責めに帰すべき事由により休業を行う場合には、休業手当を支払わなければならないケースが出てきます。この点については、下記Q2をご覧ください。

また、使用者の責めに帰すべき事由によるのかどうかが微妙なケースもあります。これについては、下記Q3をご覧ください。

2. 休業手当①

Q2 労働日数を減らしたり一日の労働時間を短縮する場合に、従業員に対して何らかの手当を支払う必要はありますか。また、どのように計算するのでしょうか。

(1) 休業手当に関する労働基準法上の規定

労働基準法第26条は、休業手当に関して以下のとおり規定しています。

第二十六条(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

すなわち、使用者の責めに帰すべき事由により労働者の労働日数を減らしたり労働時間を短縮する場合は、対象となる労働者に対して、平均賃金の60%以上の手当を支払わなければなりません。

休業手当の金額は、平均賃金の60%以上と定められています。但し、就業規則又は労働契約によって60%より高い割合が規定されていれば、当該割合が基準となります。

(2) 平均賃金とは

なお、ここでいう「平均賃金」とは、過去3か月分の賃金の合計額を、その3か月の暦日数で割って算出される金額をいいます(労働基準法第12条。但し、同条において、平均賃金の下限や平均賃金の計算から除外される期間が規定されているので注意が必要です。)。欠勤の場合に使用される1日あたりの賃金とは異なり、通勤手当、残業代、昼食補助などを含んで計算されます。

話を休業手当に戻しますと、例えば、休業日に関して使用者が平均賃金の80%を支給しているならば(就業規則や労働契約に異なる割合の規定がないこととします。)、労働基準法第26条に基づく休業手当の支払は必要ありません。法律よりも労働者にとって有利な扱いをしているのですから、それ以上の負担を強いられることがないのは当然です。

(3) 休業手当の計算方法

では、休業手当を含む月例給与の計算はどのように行われるのでしょうか。

まず、所定労働日数のうち、休業日とそれ以外の日を区別します。ここで注意すべきは、その日全体について休みとされた日だけでなく、労働時間の短縮が行われた日も給与計算上休業日にカウントされるということです。上記1.(1)の休業の考え方と同じです。

次に、休業日外の日と休業日について、それぞれ①から③に記載される金額を算出します。

① 休業日以外の日について、その全日数分の賃金総額

② 休業日のうち、平均賃金の60%(就業規則又は労働契約に60%より高い割合の規定があれば、その割合)(以下「基準賃金」といいます。)以上の賃金が支払われている日について、その全日数分の賃金総額

③ 休業日のうち、支給される賃金(本③に基づき加算されるものを除きます。)が基準賃金未満の日について、基準賃金に不足する金額を加えて支給することとし、その全日数分の支給総額(この支給総額は「基準賃金×対象日数」となります。)

最後に、①から③で算出された金額を合計すると、これが休業手当を含む月例給与となります。

なお、労働者との合意によって所定労働日数又は所定労働時間の変更が行われた場合は、「休業」に該当しません。所定労働日や所定労働時間の対象から除外された時間は、労働契約上労働義務ある時間ではないからです(上記1.(1)をご参照ください。)。そのため、休業手当の支払は必要ありません。

3. 休業手当②(政府による緊急事態宣言等による休業)

Q3 政府による緊急事態宣言、都道府県による施設の使用停止及び催物の開催の停止要請、その他の指示等に伴う休業の場合、休業手当を支払わなければならないでしょうか。

(1) 結論

結論として、一律に休業手当の支払義務がなくなるといえるわけではありません。

(2) 「使用者の責めに帰すべき事由」の解釈

新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、政府による緊急事態宣言が行われ、都道府県からは一定の施設の使用停止等のいわゆる休業要請が行われています。このような状況においては、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合(労働基準法第26条)」という休業手当を支払うべき要件を満たさないのではないかが問題となります。

この点、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法の故意・過失の概念(民法第536条第2項「債権者の責めに帰すべき事由」)よりも広く解釈されています。すなわち、使用者に故意・過失がなく、それを防止することが困難であっても、使用者側の領域において生じた事由を含むと考えられています。不可抗力は除かれますが、労働者の最低生活の保障のため、使用者に広範な義務を課しているわけです。

(3) 「不可抗力」を原因とする休業

それでは、休業が不可抗力によるものであり、使用者が休業手当の支払義務を負わないとされるのはどのような場合でしょうか。これについては、厚生労働省ウェブサイト「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) 4 問7」に詳しい解説がなされていますので、以下に要約いたします。

まず、不可抗力による休業と言えるためには、以下のいずれも満たす必要があります。

① その原因が事業の外部より発生した事故であること

② 事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること。

①について厚生労働省は、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく対応が取られる中で、営業を自粛するよう協力依頼や要請などを受けた場合には①に該当するとしています(2020年5月3日現在)。

一方で、②に該当するには、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があります。具体的な努力を尽くしたと言えるか否かは、例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか、労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないかといった事情から判断されます。

以上から、休業要請による休業であったとしても、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていないと判断される場合には、休業手当を支払う義務を負うことになります。

4. 休業手当③(新型コロナウイルス感染者の休業)

Q4 新型コロナウイルス感染症に感染した労働者を休業させる場合、休業手当を支払う必要がありますか。

(1) 結論

感染後も無症状で在宅勤務が可能な労働者については、考え方が分かれるところではありますが、それ以外の場合には、休業手当を支払う必要はないと考えられます。

(2) 都道府県知事からの就業制限を受けた場合

新型コロナウイルス感染症に感染した場合、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」といいます。)に基づいて都道府県知事から就業制限を受けることがあります。このように都道府県知事から就業制限を受けた場合、当該労働者を休業させたとしても、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しません。そのため、休業手当を支払う必要はありません(厚生労働省ウェブサイト「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) 4 問2」)。

(3) 都道府県知事からの就業制限を受けていない場合

都道府県知事が上記の就業制限を行わなかった場合でも、不可抗力による休業と考えることができるように思われます。すなわち、労働者の感染は、①事業の外部より発生したといえますし(事業所内での集団感染の場合には微妙ですが)、②他の従業員への感染等を考えると、感染者を出勤させることはできないため、②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしても休業は避けられないと考えられるからです(上記3.(3)をご参照ください。)。

感染した労働者の症状によっては(特に無症状の場合)、自宅の設備等を考慮して在宅勤務が可能な場合もあるかもしれませんが、いつ発症するかわからない中で労働させることは、安全配慮義務に違反することとなるおそれもあります。従って、感染した時点において在宅勤務が可能であったとしても、労働者が新型コロナウイルス感染症に感染している場合で当該労働者を休業させるときには、休業手当の支払義務はないと考えてもよいでしょう。

5. 休業手当に関する助成金

Q5 休業手当の支払に関連して、助成金若しくは補助金の給付又は政府からの融資を受けることができますか。

休業手当に要した費用を助成する制度として、雇用調整助成金があります。

また、2020年4月1日から2020年6月30日までの間に実施した休業に関しては、雇用調整助成金に関して特例措置が設けられており、要件の緩和や助成率の上乗せが行われております。

詳しくは、「新型コロナウイルス関連の給付金・補助金・助成金(総論)」及び「新型コロナウイルス関連の給付金・補助金・助成金(各論①)」をご確認ください。

後半につづく

今回の記事は以上です。この続きは「新型コロナウイルスに関する労務(休業②)」をご覧ください。

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