目次

はじめに

新型コロナウイルス感染症の蔓延、緊急事態宣言の発出による休業要請や外出自粛等により、日本の経済活動は深刻なダメージを受けています。その中で、休業、営業時間の短縮又は売上の減少等により、自社又は取引先において、契約上の義務の履行に支障が出るケースが見受けられます。さらに、同感染症の流行が企業に影響を与える可能性のある事項は、企業の業種によって、多岐に渡っています。今回は、新型コロナウイルス感染症の流行によって企業の契約関係や事業活動に影響する可能性のある法律問題をいくつかピックアップしたうえで、それらについてどのように対応するべきかを検討をしていきたいと思います。

1. 下請事業者との契約関係①

Q1 新型コロナウイルス感染症の流行に関して、自社の製造量の削減や事業規模の縮小等を行うことに伴って、下請事業者からの納入を拒絶することや、下請事業者に対する発注の取消、数量・仕様等の変更をすることはできますか。

(1) 下請代金支払遅延等防止法

新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、製造量の削減や事業規模の縮小等を行う際には、取引内容や取引当事者の資本金額によって下請代金支払遅延等防止法(以下「下請代金法」といいます。)の適用対象となる可能性があるため、特に下請事業者との関係に留意する必要があります。

(2) 適用される可能性のある規定について

それでは、下請代金法のどのような規定が適用される可能性があるのでしょうか。

下請代金法では、下請事業者への一定の委託を行う者(以下「親事業者」といいます。)について、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと(下請代金法第4条第1項第1号)、下請事業者の給付の内容等を変更させること(下請代金法第4条第2項第4号)等が禁止されており、かかる規定に違反した場合には、公正取引委員会の勧告等の対象となります(同法第7条)。

したがって、下請代金法の適用を受ける場合には、下請事業者の責に帰すべき事由又は下請事業者の同意がある場合を除き、原則として下請事業者からの納入を拒絶することや下請事業者に対する発注の取消、数量・仕様等の変更をすることはできないと考えられます。

(3) 経済産業大臣による要請について

下請事業者に対し、親事業者が発注の取消又は数量・仕様等の変更をすることについては、経済産業大臣が関係事業者団体代表者宛てに対して発出した要請において、十分な協議を行い、下請事業者に損失を与えることとならないよう、仕掛品代金の支払いを行うなど最大限の配慮を行うことが要請されています。

<参考>

経済産業大臣から関係事業者団体代表者宛てに発せられた令和2年3月10日付「新型コロナウイルス感染症の拡大により影響を受ける下請等中小企業との取引に関する一層の配慮について

2. 下請事業者との契約関係②

Q2 新型コロナウイルス感染症の流行に関して、下請事業者に対する支払時期を遅らせることや下請代金を変更(減額)することはできますか。

(1) 下請代金支払遅延等防止法

新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、代金の支払遅延が生じる場合等には、取引内容や取引当事者の資本金額によって下請代金支払遅延等防止法(以下「下請代金法」といいます。)の適用対象となる可能性があるため、特に下請事業者との関係に留意する必要があります。

(2) 適用される可能性のある規定について

それでは、下請代金法のどのような規定が適用される可能性があるのでしょうか。

下請代金法では、下請代金をその支払期日を経過しても支払わないこと(下請代金法第4条第1項第2号)及び下請事業者の責に帰すべき理由がないのに下請代金の額を減じること(同条第1項第3号)等が禁止されており、かかる規定に違反した場合には、公正取引委員会の勧告等の対象となります(同法第7条)。

したがって、下請代金法の適用を受ける場合には、下請事業者の同意がある場合を除き、原則として下請業者に対する支払時期を遅らせること及び下請事業者の責に帰すべき事由がないのに下請代金を変更(減額)することはできないと考えられます。

(3) 経済産業大臣による要請について

下請事業者に対する支払いについては、経済産業大臣が関係事業者団体代表者宛てに対して発出した要請において、新型コロナウイルス感染症の影響による受注減等を受けて下請事業者の資金繰りが苦しい状況にあることを踏まえ、既定の支払条件にかかわらず支払期日・支払方法について改めて協議し、速やかな支払いや前金払等の柔軟な支払いに努めることが要請されています。

<参考>

経済産業大臣から関係事業者団体代表者宛てに発せられた令和2年3月10日付「新型コロナウイルス感染症の拡大により影響を受ける下請等中小企業との取引に関する一層の配慮について

3. 下請事業者との契約関係③

Q3 新型コロナウイルス感染症の流行に関して、下請事業者による納入が期限に遅れた場合には、どのように対応すべきですか。

(1) 原則

新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、下請事業者による納入が期限に遅れた場合には、下請事業者との間の契約上の債務不履行に該当し、契約を解除したり損害賠償を求めたりすることができる可能性があります。

(2) 経済産業大臣等による要請について

もっとも、下請事業者の納期遅れについては、経済産業大臣が関係事業者団体代表者宛てに対して発出した要請において、下請事業者が物資不足及び人手不足等に起因して納期に遅れる恐れがあることに留意し、十分な協議の上、顧客を含めた関係者の理解を得て、下請事業者に損失補填を求めることなく、納期について柔軟な対応を行うとともに、取引を継続的に実施するよう努めることが要請されています。

また、特に個人事業主・フリーランスから、発熱等の風邪の症状や、休校に伴う業務環境の変化を理由とした納期延長等の求めがあった場合については、経済産業大臣、厚生労働大臣及び公正取引委員会委員長が連名で関係事業者団体代表者宛てに対して発出した要請において、取引の相手方である個人事業主・フリーランスと十分に協議した上で、出来る限り柔軟な対応を行うことが要請されています。

この点については、下記Q4も併せてご覧ください。

<参考>

経済産業大臣から関係事業者団体代表者宛てに発せられた令和2年3月10日付「新型コロナウイルス感染症の拡大により影響を受ける下請等中小企業との取引に関する一層の配慮について

経済産業大臣、厚生労働大臣、公正取引委員会委員長から関係事業者団体代表者宛てに発せられた令和2年3月10日付「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・フリーランスとの取引に関する配慮について

4. 個人事業主・フリーランスとの契約関係

Q4 新型コロナウイルス感染症の流行に関して、個人事業主・フリーランスとの契約を変更することはできますか。

(1) 原則

契約の相手方である個人事業主・フリーランスの同意を得た場合には、可能と考えられます。

(2) 経済産業大臣等による要請について

新型コロナウイルス感染症の流行に関して、個人事業主・フリーランスとの間の契約を変更することについては、経済産業大臣、厚生労働大臣及び公正取引委員会委員長が連名で関係事業者団体代表者宛てに対して発出した要請において、元来事業基盤が弱く、収入の減少が生活基盤の悪化に直結しやすい個人事業主・フリーランスに対する影響を最小限とするため、当該変更によって新たに個人事業主・フリーランスに発生する費用を報酬額に上乗せすること、契約の変更(一部解除)に際し、既に個人事業主・フリーランスに発生している費用を負担すること、できる限り従来の取引関係を継続し、あるいは優先的に発注を行うこと等の一定の配慮をすることが要請されています。

<参考>

経済産業大臣、厚生労働大臣、公正取引委員会委員長から関係事業者団体代表者宛てに発せられた令和2年3月10日付「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・フリーランスとの取引に関する配慮について

5. 不動産賃貸借契約

Q5 新型コロナウイルス感染症の流行に伴って、不動産賃貸借契約に関して特に留意するべき点はありますか。

(1) 賃料減額に係る契約条項の有無

不動産賃貸借契約においては、一定の事由が発生した場合における賃料減額について予め定められていることがありますので、かかる条項の有無を確認することが必要です。

(2) 民法第611条第1項及び借地借家法第32条の適用について

それでは、不動産賃貸借契約に賃料減額に係る契約条項がない場合には、どのように対応すればよいのでしょうか。

不動産賃貸借契約に賃料減額に係る条項が存在しない場合には、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合(民法第611条第1項)又は租税その他の負担の増減により、不動産の価格の変動その他の経済事情の変動により、若しくは近傍同種の建物の賃料に比較して不相当となったとき(借地借家法第32条)に該当し、賃料の減額を請求できないかについて検討する必要があります。

いずれも個別具体的な事情によるものの、賃借している建物が閉鎖された場合や不動産市場が大きく変動した場合等には賃料の減額を請求できる可能性もある点には留意する必要があります。

(3) 投資用物件について

投資用物件においては、投資者から資産運用の委託を受けているアセットマネジャー等の投資運用業者が賃料の支払猶予や賃料減額に応じる場合には、善管注意義務(金融商品取引法第42条第2項等)等に違反することがないよう、①上記の社会情勢、契約条項又は法律規定等及び②中長期的な視点から投資家の立場においてもメリットがあるかどうか等を慎重に考慮したうえで決定する必要があると考えられます。

(4) 国土交通省による要請について

なお、賃料の支払が困難となる事案は社会問題化していることから、国土交通省が賃料の支払の猶予に応じる等柔軟な措置の実施の検討を要請しており、また、賃料の支払猶予に係る法整備の動き等もあるため、最新の動向を注視する必要があると考えられます。

<参考>

国土交通省土地・建設産業局不動産産業課長から各不動産関連団体の長宛てに発せられた令和2年3月31日付「新型コロナウイルス感染症に係る対応について(依頼)

国土交通省土地・建設産業局不動産産業課長及び不動産市場整備課長から各不動産関連団体の長宛てに発せられた令和2年4月9日付「新型コロナウイルス感染症に係る対応について(補足)

国土交通省土地・建設産業局不動産産業課長及び不動産市場整備課長から各不動産関連団体の長宛てに発せられた令和2年4月17日付「新型コロナウイルス感染症に係る対応について(補足その2)

6. 政府による物資の売渡要請等

Q6 新型コロナウイルス感染症の流行に関して、政府から衛生用品等の物資の売渡しを要請されることはありますか。

(1) 特定物資の売渡要請及び収用

新型インフルエンザ等特別措置法第55条第1項及び同法施行令第14条には、都道府県知事が、緊急事態措置の実施に必要な物資であって生産、集荷、販売、配給、保管又は輸送を業とする者が取り扱う医薬品、食品、医療機器その他衛生用品又は燃料等(以下「特定物資」といいます。)について、その所有者に売渡しを請求することができることが規定されています。

また、上記要請に応じないときは、都道府県知事は、特定物資を収用することができることとされています(同法第55条第2項)。

(2) 損失補償

特定物資の収容が行われた場合、国及び都道府県が当該収用により通常生ずべき損失を補償等しなければならないことも併せて規定されています(同法第62条第1項)。

7. 不可抗力による免責

Q7 新型コロナウイルス感染症の流行の影響により契約上の義務を履行できない場合には、不可抗力による債務不履行として免責されますか。

(1) 免責条項に新型コロナウイルス感染症の流行が含まれる場合

契約に不可抗力による債務不履行責任に関する免責条項がある場合には、免責対象となる不可抗力事由に新型コロナウイルス感染症の流行が含まれるのか否かを確認する必要があります。

その際、免責条項の対象となる不可抗力事由の範囲が不明確である場合には、一般的な解釈及び当該条項が設けられた趣旨等に従って検討するべきと考えられます。

なお、不可抗力に新型コロナウイルス感染症の流行が含まれる場合であっても、新型コロナウイルス感染症の流行と債務不履行に陥ったこととの間に因果関係がない場合には、免責されない可能性があります。

(2) 免責条項がない場合及び免責条項に新型コロナウイルス感染症の流行が含まれない場合

契約に不可抗力による債務不履行責任に関する免責条項がない場合及び新型コロナウイルス感染症の流行が免責条項の対象となる不可抗力事由に含まれない場合においては、債務不履行につき債務者に帰責事由がなければ免責されます(民法第415条第1項)。

したがって、個別具体的な事情によるものの、新型コロナウイルス感染症流行の影響による債務不履行につき債務者に帰責事由がない場合には、債務者が債務不履行責任を免れる場合もあり得ると考えられます。

(3) その他

但し、金銭債務の履行については不可抗力による免責が認められない点(民法第419条第3項)及び契約の解除については債務者の帰責事由が要件とはされていない点には注意が必要です。

さいごに

企業の契約関係や事業活動に影響する可能性のある法律問題に関する記事は以上となります。

本コンテンツ作成現在、非常事態宣言が発出されていることにより、業種を問わず、通常の事業活動を維持することが非常に困難な状況になっていることかと思います。そのような状況においても、法律、契約条項及び政府の要請等に従った適切な対応等が求められますので、新型コロナウイルス感染症の流行の影響が事業活動に生じている場合には、それらに違反しないよう、自社の契約関係等について、今一度慎重にご確認されることが望ましいかと思います。

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